これまで敢えて避けてきた感のある昭和の陸軍に関する本。
イメージだけで言ってしまうと、海軍は論理的で欧米に精通したエリートであり日米開戦に最後まで反対し続けたベビーフェイス。
かたや、陸軍は精神論を武器に感情的・直情的であり、なんの戦略もなくなし崩し的に国家崩壊の寸前にまで追い込んだヒール。
そんなステレオタイプで捉えがちである。
かくいうボクも、満州事変以降、なぜ日中戦争へとむやみに戦線を拡大し、さらには太平洋戦争にまで踏み込んでいったのか、政党政治を潰してまで権力を掌握して実現しなければならないモノとはなんだったのか?がわからず、最近昭和の戦前物をよく読むようになった。
しかし、この手の本をいくら読んでもいっこうにこの時代のこの流れがわからないのだ。
なぜなら、陸軍自身の戦略がお粗末にしか見えない書き方がされているから。
国家を掌握し、自ら信ずる方向へ舵取りをするような巨大な陸軍という組織が、そんなお粗末な精神論と妄想だけで動けるはずがない。
石原完爾といった名のある戦略家が次々と更迭されて人材不足に陥り、組織が硬直化したというだけの話ではないはずなのである。
そこには絶対に当時の陸軍としての確固たる思想があってしかるべきなのである。
中央公論新社
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本書は昭和陸軍として戦争の道へ進むに当たり、陸軍中央を掌握するまでの長州派、統制派、皇道派といった主要派閥の派閥争いから、最終的に中堅幕僚を中心とした統制派が権力を握るまでに至る経緯と、それを支える統制派の思想、その中心人物たる永田鉄山、石原完爾、武藤章、田中新一と続く政戦略構想を時系列に基づいて整理されたものである。
かつて、昭和初期の政党政治は脆弱なものであり戦前の幾多の困難に耐えきれず、自壊していったとされてきた。
そこになんの戦略ももたない陸軍が政治家を恫喝することで権力を掌握し、無謀な戦争へと導いたとされてきた。
しかし、近年の研究では当時の政党政治はかなり強固なものであり、国内外を含め相当安定性をもっていたということが明らかになってきている。
だとすれば、その安定した体制を突き崩すには相当な戦略構想と体制打破に向けた準備が必要だったはずである。
本書はそこに焦点を当て、昭和陸軍の推進力となる中堅幕僚層の中核メンバーの戦略構想を明らかにする。
本書を読む限りにおいて、その構想自体は精神論ではないロジカルなものである。けしてなんの戦略もなくなし崩しだったわけではない。
しかし、中央の陸軍省や参謀本部のエリートの限界もやはり垣間見られるのだ。
『〜できれば、〜という結果となるはずである』
ビジネスでも同じだが、仮定をおいて推進することは必要なことである。
しかし、『こうなるはず』が外れたときのBプランの確保と時期を逃さずに決断することの二つが出来ていないと、そのプロジェクトは崩壊する。
本書における昭和陸軍の姿勢も同じように見えるのである。
やはり、まだまだこの時代の『なぜあの戦争に至る決断をしたのか?』という部分は腑に落ちないのである。