自分の家の本棚を他所様に見せるという行為は危険なコトかもしれない。
その本棚はその人をこれまで形成してきたバックボーンとなり得るべきコンテンツのアーカイブである。
本棚がジャンル毎に整理されていれば、その人の考えていること、思想信条や、興味のあること、感情にヒットする範囲といった脳味噌の中から心の奥底まで図ることも出来うるのである。
また、本を買った順(読了した順では無い)に時系列に整理されていれば、その時々の気持ち・気分、その時にどんなことを思い、興味を持っていたかが感じ取れるはずである。
そんな極々私的な自分の内面をさらけ出すことは、お尻の穴を観られるくらいには小っ恥ずかしぃ〜コトだと思うのだ。
そんななか、ネット上ではTwitterをメインに『本棚の10冊で自分を表現する』という投稿が流行っていたらしい。
それがブログ界隈にも波及して『本棚の10冊で自分を表現する』エントリーが盛っているよぉ〜なのだ。
少々時期を逸した感も無きにしも非ずではあるが、自分も晒してみよぉ〜と(笑)
今現在でこそ程々の本棚ですんでいるが、うちの相方さんと暮らすよぉ〜になるまで、ボクは積み上がった本のタワーでいつ圧死してもおかしくない状況で暮らしていた。
学生時代から引越の度にもう読まないであろう本は処分を繰り返してきたが、うちの相方さんと暮らすにあたって以降の2回の引越で、千冊前後の整理を繰り返したおかげで、今の本棚はずいぶんシェイプアップされたコレクションのみが残っている。
その中でも10冊で自分を表現するというのは思っていた以上に困難なことだったのである。
ということで、選びに選んだ10冊がこちら!!
順番は特に重み付けはない。どれもこれも今のボクのどこかしらに根付いているモノなんで、どれもこれも同等の価値があるモノなのだ。
目次
『1973年のピンボール』村上春樹
言わずと知れた村上春樹の僕と鼠の初期三部作の真ん中。『1973年のピンボール』。
中学時代に初めて読んだ『風の歌を聴け』に衝撃を受けて、課題図書をいやいや読むという読書の苦痛から解き放ち、読書の楽しみを教えてくれたのが村上春樹の小説である。
その『風の歌を聴け』でも、三部作最後の『羊を巡る冒険』でもなく、その真ん中の『1973年のピンボール』が村上文学の中でもいまだにベスト・オブ・ベストなのである。
ピンボールとかJAZZとか、当時の自分の世代には無い上の世代の文化への憧れとせつないながらも一服の清涼剤のようなキュートな双子が深く印象に残った、小説を読んでいて初めてカラーで脳裏にイメージが描けた小説である。
『She's Rain』平中悠一
河出書房新社
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今現在、この平中悠一という作家を覚えている方がどれほどいるだろうか?
1984年12月号の文藝でデビュー、文藝賞を受賞した作品がこの『She's Rain』である。
その翌月、年が明けて単行本として初版が出版された。
すでに村上春樹の作品で同時代の小説に深く入り込んでいたボクは、初版発売とともに本書を手に取り、そこに描かれる同世代の主人公たちの夢のような学園生活に現実逃避したのである。
なにせ、ボクは田舎の進学校の男子校。右を見ても左を見ても前も見ても後ろを見ても黒い詰め襟の汗臭い男子しかいない生活にほとほと疲れきっていたのである。
中学までの総天然色の世界はどこにいってしまったのかっ!?
と毎日妄想と現実の狭間で無い物ねだりの子守歌だったのだ。
そんなところに都内ではこんなにキラキラと瑞々しい日々を送っている高校生がいるとっ!?
早く東京にでなければっ!?こんな黒い世界から早く飛びださねばっ!?!?と受験勉強に拍車をかけさせてくれたのも本書である。
阪神大震災以降、ただでさえ寡作のこの作家はパタッと筆を折ったかのように沈黙を続けている。ボクよりちょっと上の世代なんで、すでに壮年を迎えているであろうこの作家の、今の年齢と時代を踏まえた小説を読んでみたい。
『繁栄と衰退』岡崎久彦
文藝春秋
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なぜか、小学校の低学年の頃から歴史は好きだった。日本史は小中でほとんど流れを掴んでいたため、高校に入ってからは世界史に興味が移っていったのだ。
学校で習う世界史というモノを軸に世界史を線では無く、面で理解を深め、さらには時間を越えた歴史という教訓を学び始めると、日本史や世界史といったモノはさらにオモシロくなってくる。
本書はちょうどバブル崩壊前夜くらいに単行本として出版されたモノである。
17世紀にスペイン、ポルトガルに打ち勝ち世界を席巻した商業国家オランダ。日本史でも関わりの出てくるオランダではあるが、なぜ国土も広くないオランダが世界の海を席巻するようになったのか?そして、なぜイギリス・フランスの台頭とともに没落していくこととなったのか?
ちょうどバブルに浮かれる日本への教訓のような形で描かれたその内容は、まさに数年後には社会に出て行く当時のボクにとって歴史から何を学ぶか?ということと戦略と戦術を見間違うな!ということを深く印象づけられた一冊だった。
『7つの習慣』スティーブン・R・コヴィー
キングベアー出版
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ホワイトカラーでこれから自分の仕事、自分の人生についてどうしようか?とフト考えたくなった方は一度は手にしてみる本が本書ではなかろうか?
ボクがペイペイから課長代理に上がる頃にIT業界を中心にライフハックが話題に上がり始めた。ミーハーなボクはそのちょっとした工夫で生産性をあげるというテクニックにハマり、様々なビジネス本・自己啓発本の類を読み散らかしたのもそんな時期だった。
そしてイロイロと読み漁っているうちに流れ着いたのが『7つの習慣』だったのである。
本書を読んで、わかったことは世に様々なビジネス本・自己啓発本があれど、そのほとんどのオリジナルは本書であるということ。本書の内容をわかりやすく整理し直したモノがその手の本であると断言してもいいくらい、仕事や人生で悩む一通りのことを解説してくれるのが本書である。
しかし、宗教的なモノが本書のバックボーンにあるンで、人によっては説教臭くてたまらんっ!と放り出したくなるかもしれない(笑)
でも、これと次の本さえ読んでおけばだいたいのことはなんとかなる。そんな古典の偉大さを改めて実感したのも本書である。
『マネジメント』P・F・ドラッカー
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 279
こちらもホワイトカラーの迷える子羊のための必需品(笑)
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の元ネタになったのが『マネジメント(エッセンシャル版)』である。
元々、このエッセンシャル版では無く原書の『マネジメント』を全巻読破してやろう!と意気込んだモノの、さすがにこの手の本を複数巻読み続けるだけの気力がなく、結局エッセンシャル版だけでお茶を濁すことにした(笑)
でも、たいていのことはこれと『7つの習慣』さえ何度も繰り返し読めばなんとかなる。
不思議とこの2つとも、読む度に引っかかる部分が異なってくるのである。歳や立場によっても感じ入るところが違ってくるのだろう。
まさに公的な部分のボクを形作ってくれた2冊である。
『ビックリハウス驚愕大全』萩原朔美
こちらは今のボクの感覚的な部分のバックボーンとなっている、ボクにとってとても大切な出会いである。
といってもこの『ビックリハウス驚愕大全』ではなく、『ビックリハウス』というその手の文化が好きな人にはたまらない伝説の雑誌のことである。
一言でいってしまうとサブカルチャー雑誌。でも、現在サブカルチャーといって想像されるサブカルチャーとはちょっと対象が異なる。
アニメもマンガもフィギュアもコスプレも主流では無い。そんな80年代のサブカルチャーを代表する雑誌だったのだ。
お笑いといっても今のような芸人が」メインでは無く、デビュー当時のタモリのような、芸人ではない外辺をウロウロしているちょっと変わったオモシロい文化人が醸し出す言葉遊びがとても新鮮で、『文字』が連なる『文章』の可能性を広げさせてくれたのがビックリハウスだった。
ちょっと斜めに構えたクスクス笑いを提供する、糸井重里や川崎徹、浅井愼平といった当時すでに業界の有名クリエーターから、YMOのお三方や伊武雅刀といった音楽界のオモロイ人、文壇からは橋本治とかまだど素人だった大槻ケンヂといった、今思うと錚々たるメンバーが集結していたこの雑誌は高校時代のボクに、前出の『She's Rain』と共にはやく都内に上京せねばっ!!と受験勉強のケツを叩く役割を果たしてくれたのでございました(笑)。
『「ポパイ」の時代』赤田祐一
太田出版
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80年代にケツの青い春を謳歌していたボクら世代にとって、同時代の情報収集の教科書といえば、HotDog Pressとポパイの2誌が2大巨頭だった。とにかくこの手の情報誌を読んでファッションや映画、本といった時代の流行というメディアが撒き散らす情報に右往左往させられていた情弱が80年代のボクらだったのである(笑)
ボクはどちらかというとポパイ派だった。
Hot Dog Pressは夏休み前とクリスマス前のSEX特集の時は御多分に洩れずに購読したが、それ以外はポパイだったのである。これはやはりポパイ創刊当初にあったサブカルチャー的な匂いが紙面から滲み出ていたから。すでにビックリハウスでサブカルチャー的なモノに異様に敏感になっていたボクには、少しでもサブカル的なポパイの方が格好良く感じたのだ。
そういう意味ではこれも『「ポパイ」の時代』というよりもポパイという雑誌そのものの方である。
しかし、時代とともにサブカル臭は皆無となり、ファッション中心に、やがてはオリーブでヒットした編集方針にしたがった誌面となるにつれて、なんだか中途半端なファッション誌的な感じになっていってしまったのは非常に残念である。
『植草甚一研究』植草甚一
晶文社
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中学高校で出会ってしまったサブカルチャーへの熱は、同時代のサブカルチャーからボクらの前の世代のサブカルチャーへの興味に遡っていく。
まだ『サブカルチャー』という言葉よりも『カウンターカルチャー』という時代の方が一般的だった頃の時代である。
ボクには勝手に師匠と呼んでいるロールモデルが三人いる。
まず第一にベンガル。第二になぎら健壱。第三に高田純次である。
高校くらいからこの3人がボクが目指す大人であると公言してきた。
さらに言うとその先は藤村俊二、通称おひょいさんである。
しかし、実は究極の目標は植草甚一氏なのである。
通称JJ。でもこの人の名前を出しても同世代の誰も知らないと思うんで、植草甚一の名前を出したことはこれまでにない(笑)
まさに、今に通じるカウンターカルチャーの考現学的な振る舞いをした最初の趣味人がこのJJこと植草甚一氏だと思うのだ。
本書は1970年代後半から1980年までの5年間に刊行された『植草甚一スクラップブック』、通称JJ大全集の2004年から復刊された復刻版の最後の別巻である。
2004年から複数巻毎に出版されたJJ大全集は全40巻+別巻。全て購入した。
この中にはボクと同時代の80年代にはない、70年代のカウンターカルチャーのあらゆる要素が詰まっている。
映画やジャズ、本はもちろん、マリファナとかのちょっと危険なアメリカ文化を興味本位で次から次へと発掘し、自分が好きだからという理由だけで、読者の趣向や流行なんてことは一切考えずに自由に発信する。
そこに共鳴するものだけがJJの周りに集まり始め、そうやってちょっとひねりのある情報が次から次へと集まって、さらに面白そうなことにつながっていく。
そんな老人にわたしはなりたい。
『まことちゃん』楳図かずお
小学館
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うちの相方さんにはタイヘン申し訳ないが、この歳になってもいつまでも小2のヨォ〜なアホなちょっかいばかり出してしまうのは、この『まことちゃん』に原因があると言っても過言ではない。
これを小学校の時期に読んでいたというのは大人になって改めて読み返してみるととんでもないことである(笑)
正常な大人の感覚であればこれは有害図書以外の何物でもない。
うんこは日常茶飯事、お漏らしやら、SMチックなお仕置きやらどこを取っても小学生が大好きな下ネタのオンパレードだ。
しかし、大人になって読み返してみるとただのうんこおしっこマンガだけではなく、非常に書き込まれた不条理マンガとしても読めてくるのが不思議である。
これも歳をとったが故の余裕なのだろうか?
うちの小春さんのウンチを見てもウヒャッヒャッとなってしまうのは、まことちゃんのせいです。ごめんなさいm(_ _)m
『風呂上がりの夜空に』小林じんこ
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最後を飾るのは孤高の天才、小林じんこの代表作『風呂上がりの夜空に』。
この人も寡作な人で、今の時代小林じんこを知っている人ってどれほどなんだろう?というくらい一気に咲き誇って天賦の才を撒き散らして勝手に居なくなっていった感のある作家である。
そもそもあまりマンガを読まない中でもこの作品は今でもたまに読み返すほど、その世界に浸りたい作品である。
まずそのタイトル。『風呂上がりの夜空に』
言わずと知れたRCサクセションの名曲『雨上がりの夜空に』をひねったものだ。
この風呂上がりという語感から、ボクはこのマンガを読むといつもトワイライトなイメージの世界に引き込まれていく。
最初のうちは普通のラブコメのような展開だったのが、途中からなんとも言えない作者独自の世界観に読者は引き込まれていくことになるのだが、その独自の世界観がトライライトの薄明かりの中で展開されていき、ラブコメともファンタジーとも言えないとても不思議な世界へと誘ってくれる。
絵があって初めてマンガというメディアは成立するが、作者が描く絵以上のイメージを膨らませてくれるマンガはボクにとっては本書だけである。
ということで、以上10冊が今のボクを形作ってくれたケツの穴。
いやいや『本棚の10冊で自分を表現する』の結論でございました。
しかし、ビジネス系の2冊以外はほとんど中高大といった学生時代のものってところが、いいのか残念なのか。
やっぱり若い頃の感受性が強い時に読んだ本の方が印象が強く残ってるんだろうなぁ〜。
まぁ、音楽にしても最近のより学生時代に聴き込んだモノの方が、未だに聴いてたりするしなぁ〜。
まだまだこれからも自分の生き方に影響を与えてくれるような本に出会いたいモンでございます。