僕の彼女は週末になるとたった1個だけプリンを作る。3年前僕はふと、「プリンが食べたい」と言った。
彼女はプリンが食べれない。食べると肌がかさかさになってかゆくなってしまうからだ。「そんなの作れないもん!」と言ったくせに翌週末には僕の家にわざわざプリンを届けにきた。
「味見ができないからおいしいかどうかわからない」と言っていたが結構おいしかったので、「おいしいよ、上手にできてるよ」と言ったら、翌週も、翌々週も、その次の週もたった1個のプリンを作って持ってきた。味は毎回微妙に違っていたが、まずいと感じたことは一度もなかった。
その後一緒に暮らし始めてわかったのだが、彼女のプリンは毎週金曜の夜11時に作り始める。10時からのドラマを見終わって、お茶を一杯飲んでから作るのだ。
プリンを作りながら彼女はいろいろなことを話す。スーパーで出会ったおばあさんの話。本屋さんで立ち読みした話。友達の飼っている猫の話。
たまに、最近はやっている歌のさびの部分だけ何度もリピートして歌ったりする。僕に話しかけているというわけでもないのだ。「え?」っと聞き返すと、「なんでもない」と答える。
要するにぼんやりといろいろなことを考えているらしい。
彼女は今夜もプリンを作り始めた。「家の下に大きな青いサンタがいたね」とちょっと嬉しそうにつぶやいた。彼女は今夜はサンタのことを考えているらしい。
彼女のプリンの味は3年たった今でも一定しない。なぜだろうと不思議に思ってずっと観察してきた。さっき気づいたのだが、彼女は魔法の調味料を使っていたのだ。毎週違った「ぼんやり」で味付けをしているのだ。
どうりでフワフワとしてつかみ所のない味だとぼくはおかしくなって一人で笑い出した。
彼女がキッチンから顔を出し、「何かおもしろいことあったの?」とたずねる。僕が笑い続けているのでまたキッチンに戻って妙な鼻歌を歌いはじめた。
明日の朝食べる「ぼんやり」の味が楽しみだなぁと僕はぼんやり考えていた。